突然の駅のアナウンス音に驚き我に返ると、

「……そろそろ行った方がいいよ。遅刻しないように」

何かを察するように、葉山先生が言った。


「あ、はい。先生ありがとうございました」

「……ありがとうございます」

エー子の後を追うようにお礼をすると、私たちは隣のホームへ移動するため階段を上がった。

階段を上がりきる直前、私は恐る恐る後ろを振り返った。


そこに、こちらを見上げている葉山先生の姿があった。

片手に本を持つ、グレーのスーツ姿、それで葉山先生だと分かる。

次の電車の到着のアナウンスが流れると、押し寄せる波のように人々が動き出し、その中に先生の姿が消えた。


「……」

一瞬で姿を見失う……。

顔だけでは、どうしても見分けがつかない。

このもどかしい想い……。


「そういえば美月」

「え?」

隣のホームへ急いで向かう、小走りになりながらエー子が声をかけてきた。


「葉山先生、なんの本読んでたか分かった?」

「星の本」

「星? 夜空の星のこと?」

「うん」