学校を辞めて、私に穏やかな日々が訪れた。


毎朝の混み合った電車、人の視線を恐れ深くうつむく日々。

今は、そんなこともなくなった。

声をかけてくれる人が誰かわからなくても、素直に相貌失認のことを伝え、『誰か』を教えてもらう。

もちろん中には、正直に誰かわからないことを伝えたら、余計に怒らせてしまう人もいたりはする。

相貌失認を理解してもらえるとは思っていない。でも、少しでもわかってもらいたいと思う。

だから、今はもう恐れることなく『相貌失認』を伝えていこうと強く思う。


素直に正直に伝えることが出来るようになっただけ進歩で、ストレスも減った。

たまに出かけた時に乗る電車の中で、今までのように深くうつむく癖はまだ治ってはいないけど、以前より顔を上げて生活出来るようになった。



今日は先生と映画の約束。

映画を観ても、まだそのストーリーを理解することが私には難しくて……。

でもそれも相貌失認の克服のためのトレーニングと思えば、こんなに楽しいトレーニングなら頑張れそうだ。



電車の中から見る景色は、いつの間にか冬一色になっていて。

葉を散らした木の枝も寒そうに見えた。

最近先生と話す星座も、今は冬の星座にかわり、今までこんなに自分が季節を感じることなんてなかったなと昔を思い返すと、なんとなくもったいないことをしたと感じたりもする。