「お母さん言ったでしょ。高校生の時引っ越して来て、知り合いがほとんどいない自分をお父さんが守ってくれたって。それ、今の私と同じだよ」

「……」

「相貌失認になって、周りとうまく合わせられなくて、人の視線が怖くなって、危ない目に何度も遭って……。二人には心配させたくなくて黙ってたけど、外に出るのも怖かったし、正直、『生きにくい』ってずっと思ってた」

「美月……」

「そんな私を先生はいつも守ってくれた。先生がいたから毎日学校へ行くのも楽しくなった。そんな私の気持ちも考えないで、自分たちの都合ばっかりじゃない!」


私はそのまま二階へ駆け上がった。


「美月!」

「美月!」


何度も、何度も部屋のドアを叩く音が響いて、部屋に一人でいてもどうしても落ち着かなくて……。


どう表現したらいいのか、心の奥……いや、もっと体全体でモヤモヤした感覚、ムズムズした感覚に居ても立っても居られず、私は身支度を整えるとドアのノックが止むのを待って家を飛び出した。



どこに何っていう思いは、まったくなかった。

小走りに駅へ向かい、電車に飛び乗っていた。

車窓から見る星々が流れ星のように見えて、はやる胸のうちを抑えるのでいっぱいだった。