事務所に着くと、今、私たちが止めてしまった電車のせいだろうか、数名の駅員さんが慌ただしくしていた。
何事もなかったとはいえ、この時間に何があったかを明らかにするため、署名を求められた。
「星北高の先生でしたか。先生のカバンは隣駅で預かっていますので、受け取りに行ってください」
「ありがとうございます。お手数かけてすみません」
駅員さんと話しながら、先生は目の前の用紙にサインしている。
"葉山 圭"
そう書いた文字は、男性にしてはとても綺麗で、先生という職業柄もあるのかなと感じさせた。
長身なだけあってか、ペンを握る指は長くスラッとしていて節が太く、男らしい大きな手をしていた。
「君たちは……その制服は中央学園だね。何事もなかったとはいえ、朝のラッシュ時は人が多いんだ、気をつけないと怪我もし兼ねないんだよ」
駅員さんの話も遠くに、私は先生の横顔を見つめた。
唇の左下に小さなホクロ。
大きな手。
他の人より低く感じる声。
私は先生の特徴を探そうと必死に見つめた。
――――突然、先生が顔を上げ、目が合った。
ドキンと胸が鳴る。
そしてフワッと感じるライムの香りに、また胸が鳴った。