あの人が、いつも同じ時間の電車に乗って来て、同じ車両、同じドアの前、そしていつものように革のカバンから本を一冊取り出し、重そうなカバンをひょいと網棚に乗せる。
そして、手にした本を開く。
同じ動作、それであの人が同じ人物だと認識する。
私には、あの人がどんな顔をしているのかわからない。
この電車以外で会っても、きっと私は気付かないだろう……。
「ねー、近くに行ってみようよ!」
「はっ!?」
エー子の言葉に驚き振り向くと、エー子は私の手を握り、すでに動き始めていた。
さっきより乗客が少なくなっているとはいえ、朝の通勤電車だ。
混み合った中をエー子はためらいもなく、グイグイ進んだ。
「ちょっ……ちょっとエー子!」
「だって! 何の本読んでるのか気になるんでしょ?」
「~~~~」
もう!
何の本読んでるんだろうなんて、エー子に言ったのが失敗だったと思った。