古びた薄い冊子を閉じ「はぁー」と深く息を吐いた。
小さな小さな町の商店街にある昔ながらの個人の本屋。
その中で見つけた、セールと書かれたカゴに入れられた本を、私は無意識に手に取っていた。
学校帰りの電車の中で開いた本とは言えないあまりにも薄いそれは、一枚一枚が茶ばんだ古い和紙のようなものに筆で書かれていた。
驚いたのは、たった5ページしかないその本に、鋭い目をした躍動感のある竜が描かれていて、その目が私の心の中……いや、そのもっと奥の方をゾクゾクさせた。
とても短い読み物が、まるで何十ページもあるような感覚にさせ、読み終わった後、体の気怠さに気づき、「はぁー」と大きく息を吐いた。
夢中で読み、現実の世界に戻った時、ヒソヒソと話をする声に気付いた。
「……」
顔は上げられない……。
「……席譲ってあげればいいのに」
「気づかないんじゃない。 本読んでるし」
聞こえた声にチラッと見ると、私の座る目の前に、腰の曲がった杖をついたお婆さんが立っていた。
私のことだ……!
ヒソヒソと聞こえた言葉が私に向け発せられているものだと気付いたら、一気に顔が赤くなるのが分かった。