「短いバイトだったのに、なんか感動しちゃったよねー」

エー子が花束を見つめ言った。

「うん、そうだね」


お昼過ぎに幼稚園を出て、私たちは駅へ向かっていた。

話はバイトであった色んなこと。

あんなこと、こんなこと、思い出しては笑う。

思えば、楽しいことのほうが多かった。

自分にはもうバイトは出来ないと思っていたけど、恐怖のせいで、そう思っただけだったのかもしれない。



「あ……美月あれ!」

「え?」

駅の改札口の所に立つ女性を見て、エー子が声を上げた。


「誰?」

細い足を出したミニスカート、ミルクティー色のショートボブ……。

「ほら、あの香代って子!」

「……」

香代……。


「えっ……こっち歩いてくる」

香代ちゃんが私の前まで来ると、あの鋭い目で私を見つめた。


「……」

「美人だからって勘違いしないでよ! 圭ちゃんのことは、幼馴染の私が一番わかってるんだから!」

そう言うと、私たちが来た道を歩いていった。



『私が一番わかってるんだから!』



「……」

今まであの鋭い視線だけだった彼女の初めての言葉……。

それはまるで、何かを警告されたような、そんな恐怖を私に与えた━━━━。