「人の顔が認識できない?」

副園長は驚くように言った。


「相貌失認っていうんだ」

「……相貌失認? 人の顔が見えないってこと?」

「目が見えないってことじゃない。目や鼻や口や顔のパーツは分かっても、それが一つの顔として認識出来ず、顔だけではその人が誰かって判断が出来ないんだ」

「どうして圭がそんなことを知っているんだい?」

園長先生が言った。

「……」

「……まぁ、そのことは後にしましょう」

副園長が話を戻すように言った。

「もし、その話が本当だったとするなら、それは前もって話して置くべきことだったでしょう?」

「……はい」

『その話が本当だったとするなら』……。

「私たちがみんな、その障害のことを知っていたら、前もって何かしらのフォローは出来たと思うし。申し訳ないけど、一秒だって園児をあなたに任せるようなことはしなかった」

「……」

厳しい言葉だった。

「そういうことがあって、羽田さん本人はとても大変だと思うけれど、仕事としてここで働くことは難しかったと思うわ」

「……」

「申し訳ないけど、あなたのことよりもお預かりする子供たちのことを守ることが、私には一番に大切なことだから」

きっぱりと言われた言葉に、ショックという思いもなかった。