「美月! 来たよ!」
エー子が興奮したように、そして周りに聞こえないような小さな声で私に言った。
「野花公園前」と駅名がアナウンスされ電車のドアが開くと、私たちが立っているドアのその隣のドアの前へ、その人は立った。
いつもと同じ時間の電車。
同じ車両。
同じドアの前。
そして、いつものように本を開く。
「……なんの本読んでるんだろう」
「え? 本?」
私がボソッとつぶやいた言葉に、エー子はすぐに反応した。
スーツで身を包んだその男性は、網棚をちょっと超えるくらいの長身で、短くカットされた黒髪がさわやかに見えた。