数週間の入院も、体の異常は何もみられなかった。
ただ、毎日毎日たくさん話して、この人が『お母さん』と理解しても次の日には分からなくなってしまう。
聞きなれた声で、やっとそれがお母さんだと分かる。
看護師さんも同じことで、一度病室から出て行ってしまったら、数分後に同じ人が入って来ても誰なのか分からなくなってしまう。
看護師さんすべての顔を認識出来るようになるなんて到底無理で、ネームプレートが頼みの綱だった。
それを見て「さっき話した人だ」と認識出来た。
その時から、私は別人になった。
以前の私は元気で明るくて面白い子だったそうだ。
さっきのウワサ話をされるような、チアリーディング部でも目立つ存在だった。
今は、とにかく人と距離を置きたいと思ってしまう。
だって……人の顔が分からないんだから……。
すべてが恐怖でしかなかった……。