「美月、明日寝坊しないでよー」

「はいはーい」

別れ際、私は返事をしながらエー子に向けて手を振った。



なんだろう……明日から本格的に始まるバイトを思うと、不安と期待とが入り混じっていた。

前の私は何にしても積極的で、不安とか怖いとかそんな気持ちを持つことはなかった。

今思えば、なんて楽観的というか、鈍感というか……。

繊細の"せ"の字もない女だった。

だから、エー子やお母さんにまで『女の子が好きそうなもの好きじゃないくせに』なんて言われちゃうんだよなぁ。

今は、すべてといっていいほど真逆の性格になってしまった……。

こんな弱気な自分を情けないと思ってしまう。

できるなら、繊細な面を持ちつつ、前のような強い自分に戻りたいと贅沢なことを願ってしまう。



朝のうちに上がった雨、晴れた空を見上げ、ため息をついた。

家へ向かおうと歩き出した時、ポケットに入っているスマホの着信が鳴った。

見るとLINEのメッセージ。


『今どこ? もう帰っちゃった?』


それは圭先生からだった。


「先生!」

私は一人声を上げた。


帰ってない! 帰ってない!


『まだ駅にいる』


私はドキドキで、震える手で返信した。