よくいう、その場所は真っ白な世界で。
目覚めた私の視界はすべてが白かった。
真っ直ぐ見つめるそれが、どこかの天井だと気付いた時、「美月! 美月!」と私の名前を呼び、泣き叫ぶ女性。
それが『お母さん』であることは、声で分かった。
だが、私が目を覚ましたことで慌ただしく部屋に出入りする人々、その人たちの声に、私はパニックになった。
その人たちが誰なのか……。
私は、その人たちの顔がまったく分からなくなっていた。
知らない人とか初めて会った人とか、そういうことではなく、私の視界に映るすべての人の顔がみんな同じに見えた。
真っ白な世界、風に揺れる真っ白なカーテン、落着きを取り戻した時、そこが病室であると気付いた。
白衣を着ている人のネームプレートを見て医師だとわかる。
ナース服姿の人は体型や髪形の違いからも女性の看護師さんとわかった。
でも、次々に病室に駈け込んで来る人が誰なのか、顔がまったくわからなかった。
人の顔がわからない……。
目が見えないわけじゃない。
その人が誰なのか、わからない……。