電車に乗り込むと、梅雨独特のむわっとした空気を感じた。
乗客は少なかったが、湿度の高さがわかるような重い空気。
季節的な配慮なのか、まだ冷たいクーラーではなく、緩やかに天井のファンが回っているだけだった。
このジメジメした感じが私は嫌いだった。
少しの乗客から離れ、私たちは連結部分近くの座席に座った。
「……先生」
「うん?」
「……ウザイなって思わなかった?」
「え?」
先生は驚いたような声を出した。
「私のこと」
聞くのが怖い……私はその言葉を先生に投げかけた。
「ウザイ? どういうこと?」
「……私が人の顔がわかれば、こんなことにはならなかったのに……って。お巡りさんも、まるで疑っているような口ぶりだったし……」
「相貌失認のこと?」
「うん」
「ああいう人たちは何でも疑ってかかるのが仕事のようなものだから。"目に見える確実"で、あの人たちはやっと信用するんだよ」
「だから!」
私は思わず声を上げ、慌てて周りを見回した。
自分が気にするほど周りの乗客たちは気にしている様子はなく、ホッとした。