「お巡りさん、彼女は……羽田さんは、"相貌失認"なんです」
先生のうなずきは、障害のことを話してもいいか?ということだと、すぐに分かった。
「相貌失認?」
「人の顔が認識できないんです」
「認識できない?」
お巡りさんは先生が何を言っているのかわからない様子で、何度も聞き返していた。
「一度や二度会っただけでは、その相手が誰なのか顔を見ただけでは覚えられないんです。体格や髪型や声や……相手がすぐわかるような特徴的印象が強ければ『誰か』の判断はしやすいんですが」
先生は私の代わりに説明してくれた。
私は障害のことをそこまで詳しく話したつもりはないのに、先生はまるで相貌失認を前々から知っているような、そんな口調で話し続けた。
先生のことだから、色々調べてくれたのかな……。
「人の顔がわからない……そんなことがあるんだねぇ」
疑っているような口ぶり。
「僕知ってますよ。知人の弟さんが相貌失認で大変で、学校も休学することになってしまったって聞いたことがあります」
もう一人の若いお巡りさんの言葉に、ちょっとホッとした。
相貌失認を知ってくれている人がいるだけで、安心感に変わる。