「美月こっちー!」

エー子が私の手を引き、混み合った電車の中をぐいぐい移動する。

車両の連結部分に一番近いドアの前に立った。

このドアが開けば、出口に続く階段の前に着く。

そんなことさえも考えて電車に乗らないと、すぐ人の波に飲まれ、エー子を見失ってしまうのだ。


エー子がドアに背を付けると、私は車両に乗る人々に背を向けるように立った。

今日はいつもより混んでいる気がして、座席に空きはまったく無い。

ここまで混んでいると、たくさんの人たちの顔を見るのが怖い……。


「あ! あれ、中央学園の羽田さんじゃない!?」

「中央学園の羽田?」

「チアリーディング部の羽田美月!」

「えっ、チア部の羽田美月!? どこどこ!?」


その会話が聞こえ、私は顔を逸らすように、うつむいた。

「初めて見たー! 本当にかわいいねー。顔ちっちゃーい!」

「見て見て! 髪超長ーい! きれーい。本当に美人だよねー」


ヒソヒソとウワサされている声が聞こえるたび、どんどん体がこわばる気がしていた。