明日実が、いきなり、プッと噴き出した。
「先生が逆立ちしようとして引っくり返ったこと、覚えちょる? 漢字の小テストのとき、黒板の溝と教卓に手ば突いて、体操競技んごと逆立ちしようとして、頭から落ちたこと」
良一と和弘も笑い出した。あたしもつい、ちょっとニヤッとしてしまって、下を向いて顔を隠した。
先生はいきなり「内村航平!」と、県内出身の体操選手の名前を叫んだ。声につられて、あたしたちは漢字のテストから顔を上げた。先生は、鞍馬の技みたいな何かをしようとして、豪快な音を立てて落下した。あたしたちはあっけに取られた。
「何となく、できる気がしたとに」
先生はそう言って、痛みの涙をにじませながら爆笑した。あたしたちは、とりあえず先生が無事らしいとわかってから、ようやく笑った。そうしたら、笑いが止まらなくなって、もう漢字のテストどころじゃなくなった。
本当に意味がわからなくて、それがおかしくてたまらなかったんだ。先生は子どもみたいに突拍子もないことをする人だった。子どもだったあたしたちでさえ、負けたなって思ってしまうくらい、大人のくせに、わんぱく坊主だった。
良一が、笑いすぎの口元を手で隠しつつ、思い出話をする。
「先生って、修学旅行のときも、子どもだった。すごく、はしゃいでて。佐賀の科学館でも福岡の水族館でも。おれ、あんな大人になりたいと思ったんだよね」
六年生のときに行った修学旅行は格別の思い出だった。あたしたち六年生の三人だけじゃなくて、五年生の和弘も、もちろん一緒だった。楽しくて楽しくて、帰ってきてからも、何度も何度も語り合った。
明日実が目を輝かせた。
「あのとき、うち、生まれて初めて本土に渡ったっちゃもんね。和弘は小さいころに病気になって、自衛隊のヘリで本土の病院に運ばれたことがあるけど」
島の小学校の修学旅行は二泊三日だ。島外へ出る移動時間を考慮して、本土の小学校よりも一泊多い。
和弘がつぶやいた。
「結羽ちゃんと良ちゃんが真節小に来てくれて、よかったよ」
明日実が、ふっと微笑みを和らげた。
「そうそう。来てくれて嬉しかった。結羽が五年の四月に転校してきて、すぐに良一も来てくれて、四人になった。ずっと和弘と二人で卒業するまで過ごさんばいけんって思っちょったけん、ほんと、ざまんごて嬉しかった」
「先生が逆立ちしようとして引っくり返ったこと、覚えちょる? 漢字の小テストのとき、黒板の溝と教卓に手ば突いて、体操競技んごと逆立ちしようとして、頭から落ちたこと」
良一と和弘も笑い出した。あたしもつい、ちょっとニヤッとしてしまって、下を向いて顔を隠した。
先生はいきなり「内村航平!」と、県内出身の体操選手の名前を叫んだ。声につられて、あたしたちは漢字のテストから顔を上げた。先生は、鞍馬の技みたいな何かをしようとして、豪快な音を立てて落下した。あたしたちはあっけに取られた。
「何となく、できる気がしたとに」
先生はそう言って、痛みの涙をにじませながら爆笑した。あたしたちは、とりあえず先生が無事らしいとわかってから、ようやく笑った。そうしたら、笑いが止まらなくなって、もう漢字のテストどころじゃなくなった。
本当に意味がわからなくて、それがおかしくてたまらなかったんだ。先生は子どもみたいに突拍子もないことをする人だった。子どもだったあたしたちでさえ、負けたなって思ってしまうくらい、大人のくせに、わんぱく坊主だった。
良一が、笑いすぎの口元を手で隠しつつ、思い出話をする。
「先生って、修学旅行のときも、子どもだった。すごく、はしゃいでて。佐賀の科学館でも福岡の水族館でも。おれ、あんな大人になりたいと思ったんだよね」
六年生のときに行った修学旅行は格別の思い出だった。あたしたち六年生の三人だけじゃなくて、五年生の和弘も、もちろん一緒だった。楽しくて楽しくて、帰ってきてからも、何度も何度も語り合った。
明日実が目を輝かせた。
「あのとき、うち、生まれて初めて本土に渡ったっちゃもんね。和弘は小さいころに病気になって、自衛隊のヘリで本土の病院に運ばれたことがあるけど」
島の小学校の修学旅行は二泊三日だ。島外へ出る移動時間を考慮して、本土の小学校よりも一泊多い。
和弘がつぶやいた。
「結羽ちゃんと良ちゃんが真節小に来てくれて、よかったよ」
明日実が、ふっと微笑みを和らげた。
「そうそう。来てくれて嬉しかった。結羽が五年の四月に転校してきて、すぐに良一も来てくれて、四人になった。ずっと和弘と二人で卒業するまで過ごさんばいけんって思っちょったけん、ほんと、ざまんごて嬉しかった」