あたしが黙ると、良一が口を開く。
「明日、明るいところで歌ってる結羽を撮ってもいいかな?」
「何で?」

「コラボ動画ってことで配信したい。あと、単純に、おれがそういう絵を見てみたいから。結羽のイメージってさ、やっぱり、おれにとっては小近島の青い海と空なんだよ。どこか知らない町の夜の公園じゃなくてさ」
「ハッキリ言っていいよ。がっかりしてんでしょ? あたしが、昔のあたしじゃないから」

「違う。がっかりじゃなくて……おれ、さっきからちょっと挙動不審で、言ってることが変かもしれないけど、それが何でかっていったら、さっきも言ったとおり、ドキドキしてるからで」
「それは、あたしに対してじゃない。この状況に対してのドキドキ。ここにいても気分が落ち着かないんだったら、夏井先生の家に戻って寝れば?」

 良一が大きく息を吐き出した。そして、仰向けにひっくり返った。
「ここで寝る。やたらと刺激の多い一日で、妙に目が冴えちゃってるんだけど、疲れてるのも事実だし、横になってたら、どこででも寝られると思う」
「あっそう」

「風邪ひくよ、とか心配してくれないの? モデルは体が資本でしょ、とか」
「バカ」
「ご名答。確かに、バカなこと言った。心配してくれなんてさ。そこまでかまってもらわなくていいや。これくらいじゃ風邪ひかないし、この程度で傷むようなヤワな体じゃないし。あー、やっぱ硬いな、コンクリート。防波堤に寝転ぶって、ほんと久しぶりだ」

 良一は思いっきり伸びをして、パタッと無言になった。あたしはかまわずギターを鳴らして、だいぶ前に作った唄にアレンジを加えながら歌ってみたりして、ふと見てみたら、良一は本当に寝ていた。
 ああ、確かに良一なんだなって、急に思った。力の抜けた寝顔はあどけない。初めて小近島に来たころの、小さくて頼りなげな男の子を、あたしは思い出した。