それから、と彼女は言った。
「慧が大事にしてる帽子。あれ、あたしがあげたの」
「え……」
『お守りなんだ』
広瀬くんは、そう言っていた。とても大事そうに、いつも身につけているニット帽を握りしめて。
あれは、乃亜さんがあげたものだったんだ。
胸の奥が、ズキンと疼く。
なんでーー
なんで、わたしはショックを受けているんだろう。
わかったでしょ、と念を押すように、乃亜さんは言った。
「慧のこと、いちばんわかってるのはあたしだから。ちょっと仲良くなったからって、知ったつもりならないでね」
乃亜さんは、広瀬くんのことが、好きなんだ。
大好きっていう気持ちが、全身から伝わってくる。
わたしみたいななんでもない存在まで敵に見えてしまうくらい、好きで好きでしょうがないんだ。