「わかんないなら、教えてあげる」

乃亜さんが、長い髪をふわりと手で書き上げた。

髪の下に隠れていたそれに、わたしは目を見開く。

「それ……」

それは、広瀬くんの耳にあったのと、おなじものだった。

「そう。あたしも難聴なの」

乃亜さんが、難聴ーー?

あんなに楽しそうで、モデルまでやっていて、キラキラしてる人が……。

「あたしと慧は、小学校のとき、難聴の子どもの集まりで知り合ったの。あたしはそんなの行きたくなかったけど、慧がいたから通い続けた。前向きになれた。手話も覚えたし、おなじ難聴の子とも仲良くなった。モデルのオーディション受けて、雑誌の表紙飾れるまでになった。ここまでこれたのは、慧がいてくれたから。慧がいなかったらあたしは、きっといまでもひとりぼっちだった」

「…………っ」

広瀬くんに救われた。

きみの笑顔に、優しい声に、前向きな言葉に、わたしは救われた。

それは、わたしもおなじだった。

だけどーー、

「あたしのいちばんの支えはいまでも慧だし、慧だってそうだと思う。難聴の辛さは、おなじ難聴者にしかわからない」

「……」


その言葉の重みも、過ごした時間も、全然違った。

わたしは広瀬くんのなんでもない。

彼女でもないし、つい2ヶ月前に知り合ったばかりのーー