「疲れた……」

ひとりトイレに逃げ込んで、わたしは深い息を吐いた。あの場所にいる間、ずっと息が止まっていた気がした。

憧れの存在を前にして、普通に喋っていられる来海を尊敬する。

目の前の曇りなく磨かれた鏡に映るじぶんは、いつもより何倍も地味で情けない顔をしているように見えた。

そのときーー

「愛音ちゃん、みーっけ♪」

開いたドアから、乃亜さんがひょこっと顔を出した。

「あ……」

『どっか行ってよ。ジャマだから』

そう言われたのを思い出して、わたしはそそくさと入れ替わりで出ようとする。

けれどーー、

「ねえ」

ガシッと肩を掴まれてしまった。

「あんたさあ、どういうつもり?」

くるりと上向きにカールしたまつ毛の下、大きな瞳。ハッとするくらいきれいな顔。だけどそこには、さっきまでの眩しい笑顔はなかった。

「どういうって……」

「どういうつもりで慧といるのかって聞いてんの。黙ってようと思ってたけどほんと目障り」

「わたし、は」

言いかけた言葉が、喉の奥でつっかかる。

ーーどういうつもりなんだろう。