この辺りは最近新しく開発されている地域で、ショッピングビルや飲食店が通り沿いにたくさん並んでいる。そのなかのひとつ、レストランやカフェが入っている5階建てのビルのなかに、映画館があった。
映画館に来たのはすごく久しぶりで、小さい頃に家族で子ども向けのアニメを観に行って以来だった。もう何年前のことかも思い出せないくらい前のことで、いつのことかも、なにを観たのかも思い出せない。
だけど、足を踏み入れると漂ってくるキャラメルポップコーンの甘い匂いや、壁にずらりと貼られたいろんな映画のポスターは、なんだか懐かしかった。
観る映画は決まっていて、最近流行っているらしいアクション系の洋画だった。
チケットを買おうとしたとき、あ、と広瀬くんが言った。
「悪いけど、字幕でもいい?」
「ああ」
「いいよー」
とふたりが笑顔で言って、わたしもいいよと頷く。
「広瀬くん、字幕派なんだ」
「まあね」
字幕にこだわりがあるなんて意外だなと思って、は、と気づいた。
ーーもしかして、聴こえにくいのかな。
普段、あまりにも普通に会話をしているから、忘れてしまいそうになるけれど。
字幕がいいと言うことは、もしかしたらこういう場所では音が聴きにくいとか、あるのかもしれない。
音が聴こえないこと。聴こえづらいこと。
意識しなくても当たり前に聴こえるわたしには、その感覚はよくわからない。