そのとき、携帯がピコピコと鳴った。
「あ、やば」
来海から電話がきた。連絡すると言っておきながら、すっかり忘れていた。
「うわ、おれも神矢からめっちゃ電話きてる」
「大丈夫?立てる?」
立ち上がりかけたわたしの手を、広瀬くんが掴んだ。
「まだ動く元気ないから、もう少しここにいてくれる?」
「え……」
思わず、ドキッとしてしまったのを隠すために、わたしは顔を逸らした。
「じゃ、じゃあ、もう少しだけ……」
「ありがと」
傷だらけの顔で、きみはやっぱりいつもみたいに無邪気に笑うから、わたしもつられて笑ってしまった。
わたしはきみの笑顔に弱いみたい。
いつもこんな風に流されてしまう。
だけどいまは、流されるのが嫌じゃなかった。
『ごめんね。もう少しかかりそうだから、2人で回ってて』
来海にメッセージを送って、秋の澄んだ青空を見上げる。
あんなに騒がしかった人の声や音楽が、いまはずっと遠くに聴こえた。