構内のだいたいの位置は、最初にもらったパンフレットのおかげで頭に入っていた。

人混みから見つけるのは難しいから、あえてひと気のない場所を探すことにした。

ずっと、嫌な予感が拭えなかった。

なにもなければいい。そうであってほしいと願いながら、きみが困っていることばかりが頭に浮かんだ。

『愛音』

気のせいかもしれないけれど、きみが、わたしの名前を呼んだ気がしたんだ。



校舎の端まで来てしまった。角を曲がったとき、

「ひっ!?」

視界に飛び込んできたその光景に、わたしは思わず叫んで後ずさった。

全身傷だらけの人が、草の上に、仰向けに倒れている。

広瀬くんだった。いつもかぶっているニット帽はそばに落ちていて、露わになった明るいオレンジ色の髪が地面に無造作に広がっている。

「広瀬、くん」

わたしはおそるおそる近づいて、声をかけた。
けれど広瀬くんは、横たわったまま、微動だにしない。


もっと近づいて、もっと大きな声で、もう一度、叫んだ。

「広瀬くんっ!」

ぴく、と動いた気がした。閉じられた両目がうっすらと開いて、

「ーー愛音」

わたしの名前を呼んだ。

「広瀬、くん……」

頰や腕から血が出ている。

近くで見るほど痛々しくて、なにがあったか訊くのも怖かったけれど、わたしはこわごわと尋ねた。

「なにが、あったの」