「次どこ行く?」

「あ、このカフェ行きたい」

模擬店が並ぶ廊下の途中、異様な人だかりに足を止めた。

「ノアちゃーんっ!」

「かわいい!」

「コスプレ最高!!」

と叫び声が人混みのなかから聞こえる。

「あっ、ノアだ!」

来海が言って、わたしは首を傾げる。

「ノア……?」

「ノアだよ、霧崎ノア。最近人気のモデルの子。この学校だったんだー」

どこかで聞いたことがあるような名前だと思った。でも、顔が見えないからどんな人かわからない。

けれど、代わりに、意外な人物の顔が見えた。

「ノアちゃーん!こっち向いてーっ!」

と振り切った大声で叫ぶ、けれどどこかで聞き覚えのあるような声。高身長の彼は、人混みのなかでも頭ひとつ分飛び抜けていた。

「え……あの人って」

その姿に、わたしは目を見開く。

「うそっ」

来海も気づいたようで、唖然としている。

「石田くん、だよね……?」

「うん、双子の兄弟とかじゃ、ないよね……」

頭に『ノア♡LOVE』と書かれたハチマキ、ショッキングピンクのTシャツ。学校のイメージとはまるで別人のその姿に、わたしは頭が追いつかない。いっそ別人なんじゃと疑ったけれど、その顔はどう見ても本人だった。

そのとき、ふっと、何者かに変貌した石田くんと目が合ってしまった。

「…………!」
「…………!」

わたしたちの姿を認めた瞬間、硬直する石田くん。

やっぱり本人だったようだ。

「見なかったことにしようか……」

「そ、そうだね……」

わたしたちはそそくさとその場を離れた。