「話それちゃったけど……」

と来海が伺うように言う。

「そういうわけで、一緒に多賀高の学祭に行ってくださいっ!」

「…………」


『一緒にお弁当食べない?』

そう誘われたときのように、わたしはやっぱり断れなかった。わたしはどうやらこういう小動物的な目に弱いらしい。


「……わかった」

わたしは言った。

「ほんと?ありがとうっ!」

来海がガシッとわたしの手を掴んで言った。

「……じつはね」

わたしも、言葉を探りながら口を開く。

来海はプライドを捨てて正直に言ってくれた。
だから、わたしも。

「わたしも、誘われたんだ」

「えっ、うそ、誰に?」

来海は目を瞬かせた。

「えっと……広瀬くんって人」

「えっ、もしかして、この前のオレンジ色の頭の人?」

「うん」

「なんだぁ、そういうことなら早く言ってくれればよかったのに」

楽しそうに笑う来海に、嫌な予感がした。

「倉橋さんにも好きな人がいたんだねえ。なんか安心したよー」

……やっぱり。

「いやいや、ちがうから、ただチケットもらっただけだから」

「またまた、照れなくてもいいって」

「…………」

もうなにを言っても逆効果な気がするから、なにも言わないことにした。

まさか、ほんとうに行くことになるなんて、予想もしていなかった。

隣にあるのに、絶対に行くことはないと思っていた場所。

ーーでも、ほんとうは少し、行ってみたかった。

わたしの知らない広瀬くんを、知りたいと、思ったんだ。