「由香里たちには言えないよ。絶対、あり得ないって反対されるから」
と来海は苦笑して言った。
ーーああ、そうか。
それはわたしが、広瀬くんといるところを来海に見られたときと、きっとおなじような感情。
普段バカにしているくせに、みんながいないところでは仲良くしているなんて。恥ずかしいし、知られたくない。
わたしはあのとき、そう思った。この学校にいると当たり前にすら思える変なプライドが、そうさせたんだ。
「それに、倉橋さんなら、きっと、バカにしたりしないと思って」
と来海は言った。
「倉橋さん、みんなで話してるときも、人の悪口言わないでしょ。笑ったりはするけど、じぶんからは絶対に言わないよね」
わたしは驚いて目を見開いた。
わたしのことをそこまで気にしていたなんて、思わなかった。ただ一緒にお弁当を食べているだけ。そう思っていた。
わたしは来海のことを、なにも見ていなかった。
「わたしもそういうの嫌だと思うこともあるけど、結局いつも一緒になって言っちゃうから。だから、倉橋さんはカッコいいなって、思ってたんだ」
「カッコいいなんて、そんなことないよ……」
前に、広瀬くんにも言われた言葉。
『カッコよかったよ』
そんな風に言われて、違うと思った。逃げてばかりのわたしには、似合わない言葉だって。