わたしたちは廊下の、あまり人目につかない場所に移動した。ほんとうに聞かれたくない話らしい。

「あのね……」

言いずらそうな来海に、わたしは思わず身構えてしまう。

それほど言うのをためらうことって一体……。

あのね、と来海が顔をあげて言った。

「三高の学祭に、一緒に行ってほしいの」

「……へ?」

まったくもって、予想もしていなかったことに、思考が一瞬停止する。

「ダメかな?」

とその大きな瞳で、上目遣いで見つめてくる。

「いや、ダメっていうか……なんで?」

「好きな人がいるのーー三高に」

と、かぎりなく小さな声でつぶやかれたその単語に、

「え」

わたしは、びっくりして言葉を失った。

ーーいま、好きな人、って言った?

だっていつも、それはひどいんじゃ、と思うようなことも平気で言って、笑ったりして、バカにしていたのに……。

「びっくりするよね、普段あんなにバカにしてるのに、いきなり好きだなんて。あたしも、じぶんでびっくりしてるもん」

苦笑するその表情に、その言葉がほんとうなんだとわかる。

恥ずかしいような、気まずいような、不安そうな、複雑な表情。

来海のそんな顔は、見たことがなかった。