授業が終わって、教科書を机にしまっていると。
わたしの席の前に、眼鏡をかけたすらりと背の高い男の子が立って、キリッとした顔で言う。

「倉橋さん、数学のプリント、出していないのきみだけなんだが」

彼は石田暁人くん。しっかり者の典型的な委員長タイプで、なぜかクラス全員の宿題の提出状況まで把握しているちょっと変わった人だ。

「あ、ごめんね、いま出すよ」

出し忘れていたプリントを差し出すと、石田くんは形のいい眉を釣り上げて言う。

「まったく、しっかりしてくれよ。ひとりがルールを守らないと、クラス全体の規律が乱れるんですから。宿題とは個人の問題ではない、連帯責任なんだ」

「はぁ……」

宿題にそんな重い責任がかかっているとは知らなかった。


「倉橋さん、また石田くんに絡まれてたねー」

お昼ご飯を食べながら、佐奈がおもしろそうに言う。

「石田くん、倉橋さんにテストで毎回勝てないからライバル視してるんだよ」

「ほんと残念なイケメンだよね」

言いたい放題だ。

休憩時間が終わって、みんなが席に戻りはじめたとき、

「倉橋さん」

来海に声をかけられた。

「倉橋さんに頼みたいことがあるんだけど、ちょっといいかな?」

「え?いいけど……」

いつも当たり障りのない会話ばかりしている来海から、そんなことを言われるのは初めてだった。それも、なぜかわたしだけに。それは、あの2人には聞かれたくないということ?