階段をのぼって、ホームの端っこの壁にもたれて電車を待つ。

待ち時間はいつも勉強しているはず、なんだけど。

ただ待っているだけなんて、無駄な時間は嫌いだったはずなのに。

だけど、顔をあげると、勉強ばかりしていた頃は意識していなかった窓からの景色や、秋の風の匂い、1人でいたら気づかなかったことが、たくさんあって。

待ち時間が、前より嫌いじゃなくなった。

「そうだ、これ渡したかったんだ」

広瀬くんは、おもむろにリュックからなにかを取り出して言った。

はい、と差し出されたそれは、なにかのチケットみたいだった。

「……なにこれ?」

「今週の学祭でライブやることになったんだ」

「ライブ?」

「愛音に見にきてほしいなと思って」

広瀬くんはニッコリと笑って言った。