『……家に帰りたくないって、思ったの』
あのとき、心配してほしい、ほんの一瞬でも、そう思ってしまった。
だけど、心配かけたくない、そう思う気持ちもほんとうだ。
「あの、広瀬くん」
わたしは、思いきって口を開いた。
「この前は、ごめんね。もう大丈夫だから。心配してくれなくて、大丈夫だから」
広瀬くんはキョトンとして、それから、いきなり笑いだした。
「急に真顔でなに言うかと思えば、なんだそれ」
「…………」
わたし、なにかおかしなことを言っただろうか。
どうして笑われているのかもわからずに戸惑っていたら、広瀬くんの手が、わたしの頭をくしゃっと掴んだ。
「愛音、またひとりでいろいろ考えてただろ」
「う……」
「心配なんてしてないよ。ただ、おれがひとりで帰るの寂しいだけ」
「もしかして、広瀬くん……友達いないの?」
そう言うと、広瀬くんは、あははと笑った。
「愛音だっていつも1人じゃん」
「そうだけど……」
それは、わたしには一緒に帰るほど仲のいい友達がいないから。
だけど、広瀬くんはわたしとは違う。わたしと違って、人に好かれる人だと思う。
一緒に帰る友達なんて、たくさんいそうなのに。
やっぱり心配かけているんじゃないかな、と思うけれど、また笑われそうだから、それ以上なにも言えなかった。