なんだかすごく、変な感じがして落ち着かない。

いつもなら学校が終わればまっすぐに駅に向かって、電車に乗って、もう家に着いていでもいい頃。

なのに、いま、駅とはまるで逆方向に向かって、どこかもわからない場所を目指している。

しかも隣にいるのは、絶対に関わることはないと決め込んでいた三高の、オレンジ頭の男の子なんて。

想定外すぎる展開。だけど広瀬くんが隣で呑気に鼻歌なんて歌っているから、緊張感が風に乗って飛んで行ってしまいそうだった。

と、広瀬くんが足を止めた。

「着いたよ。ここが、おれのお気に入りの場所」

「……も、森?」

わたしは呆気にとられてつぶやいた。見上げるような大きな木がいくつも並んでいるけれど、よく見ればちゃんと整備された入口や駐車場があった。

「公園だよ。森と公園が一緒になってるんだ」

入口の地図によれば、散歩コースや、奥には広場や遊具もあるらしい。

へえ、とわたしは辺りを見回して感嘆の声を漏らした。

「学校の近くにこんな場所があったなんて、知らなかった」

「ここ、穴場なんだ。学校からちょっと離れてるし、そもそもうちのの学校の奴らはまずこんなこと来ないし」

広瀬くんはそう言いながら、慣れた足取りで散歩コースを歩く。

そっか、とわたしはつぶやく。

「うちの学校は、寄り道禁止だから」

「じゃ、愛音はいま、悪いことしてるんだ」

悪戯っぽく笑うきみに、

「そうなるね」

とわたしは苦笑した。

高校に入って、厳しすぎる校則に不満を漏らす人もいたけれど、わたしはとくに気にならなかった。それまでも学校が終わればまっすぐ家に帰っていたし、厳しいとも苦痛とも思わなかった。

それが当たり前になっていたから。

特殊な環境にいると、そこでの価値観が普通に思えてしまうけれど、だからといって、みんながおなじなわけじゃない。

学校帰りにこんな風に寄り道する普通だって、あるんだ。

高校に入って初めての寄り道は、ルールを破ってしまった罪悪感と、だけどそれ以上に、知らない景色を歩くワクワク感のほうが、ずっと大きかった。