「なら、帰らなきゃいいんじゃね?」

なんてことないように言う広瀬くんを、わたしはポカンとして見つめた。

「え、でも」

「たまには親心配させてやれよ。愛音はおれと違って優等生なんだから」

「広瀬くんは?いいの?」

「おれのことはいいの。心配されるような時間でもないし」

「そ、そう」

なんとなく、広瀬くんとよく駅で会うから、わたしとおなじように学校からまっすぐ家に帰らなければいけない理由があるんだと勝手に思っていた。

でも、そういうわけでもないのかな。訊いてみたい気もするけれど、でも詮索しすぎるのもよくない気がして迷っているうちに、

「じゃ、決まりってことで」

「ええ!?」

勝手に決定してしまったらしい。

いいのかな、と思うけれど、この気持ちのまま電車に乗って家に帰るのはやっぱり憂鬱で。

「……って、どこ行くの?」

「おれのお気に入りの場所」

まるで答えになっていない返事に、わたしは短くため息を吐く。

ーーまあ、いいか、どこだって。

こんなこと初めてなのに。目的地すらわからないのに。どこでもいいわけないのに。

きみといると、そんなことがなんだかすごく小さなことに思えてくる。

「少し歩くけど、いい?」

「ここまで来て、それ言う?」

「あはは。だよね」

「…………」

楽しそうに笑うきみの横で、わたしは小さくため息を吐いた。

まだ下校する生徒が多い時間。もしかしたら、知り合いに見られるかもしれない。広瀬くんは目立つから、自然と一緒にいるわたしも見られることになる。

もしかしたら、また知り合いに遭遇したりするかもーー

「愛音、どうした?」

「ううん。なんでもない」

わたしは首を振って歩みを進めた。

気にしていたって、仕方ない。

もう、わたしはとっくに、きみのペースに巻き込まれていたんだ。