時計の針は5時より少し前で、わたしは30分くらい寝ていたことになる。

寝たら元気になるなんて、なんだか子どもっぽくて恥ずかしいなと思いつつ、だけどそれが誰のおかげかは明らかだったので、

「……ありがとう」

わたしは小さく言った。

「お、珍しく素直」

ニッと意地悪そうに笑われて、やっぱり言わなきゃよかったかなと少し思う。

だけどーーやっぱり、ちゃんと言葉にしないと、わかってもらえないから。

あれからすごく、後悔していたこと。

せっかく珍しく素直になれたんだ。言うなら、いましかない。


「……それから、ごめんなさい」


勇気を振り絞ってそう言ったのに、

「え、なにが?」

キョトンとした顔をする広瀬くん。

「なにが、って」

まさか、忘れているのか。それともとぼけているのか。

「……あの、この前の、広瀬くんのこと、知らない人って言ったこと」

「え、そんなこと言ったの?ひどいな」

そんなことを言って笑うから、わたしは拍子抜けしてしまった。

「お、怒ってないの?」

「怒るもなにも、聞こえなかったから」