うすく目を開いて、ぼんやりと考える。
ここはどこだろう。固いベッド。白いシーツ。わたしの部屋じゃない。学校の保健室でもない。わたしは学校を出て、駅まで歩いて、電車に乗ろうとした。でも、乗れなかった。
頭のなかで変な音が聴こえて、不安で、怖くて、誰か助けてと心のなかで叫んでいた。そしたら、わたしを呼ぶ声がして、それで、
ーーああ、やっぱり、あの声はきみだったんだ。
ぼんやりとした視界にその姿を映した瞬間、わたしは不思議なくらい安堵する。
「愛音」
ときみが少し目を開いてもう一度言う。
「……広瀬くん」
とわたしは言った。
「ここ、どこ?」
「駅の事務室だよ。隣の部屋に駅員さんがいる」
ぼんやりと残っている記憶が、だんだんはっきりしてくる。
『たすけて』
とわたしは言って、
『わかった』
ときみは言った。
必死だった。
聴きなれない、頭に響く不快な音ーー怖くて、不安で、誰かに縋りたかった。じぶんから突き放したくせに。きみがそばにいてくれるだけで、ホッとした。
わたし、広瀬くんに抱えられて、ここに来たんだ。
いまさらながら、思い出すと恥ずかしくなる。
「愛音、顔赤いよ。もしかして熱ある?」
きみの手がわたしのおでこに触れて、わたしは慌てて飛び起きた。
「な、ないよ、全然っ」
そう言うと、広瀬くんは安心したように顔を緩めて笑った。
「ならよかった。気分は?」
「うん……だいぶ、落ち着いた、気がする」
さっきの不快な音も、もう聴こえなかった。