「ーー愛音!」

突然、じぶんの名前を呼ぶ声が聴こえた。

聞き覚えのある声。だけどわたしが知っているのんびりした声じゃなくて、


「愛音、大丈夫か!?」


焦る声に、わたしはゆっくりと顔をあげた。

いつもかぶっているニット帽、鮮やかなオレンジ色の髪の下で、心配そうな顔が、わたしを見ていた。

「……広瀬、くん」

「どうした?気分悪いのか?」

広瀬くんは隣にしゃがんで、わたしの頭に手を乗せた。

「…………」

「愛音……?」

大丈夫、なんて、強がる余裕は、なかった。

わたしはゆっくりと顔をあげて、顔をくしゃりと歪めて、


「ーーたすけて」


枯れそうな声で、そうつぶやいた。