「全然……、知らない人、だから」
喉の奥から絞り出すように、そう言った。
ーー言ってしまった。
隣にいる広瀬くんにも聞こえているだろうけれど、広瀬くんはなにも言わない。
わたしは顔を見られなくて、きみがいまどんな顔をしているのかもわからない。
「え、そうなの?」
「うん、そう」
わたしはぎこちなく頷いた。
我ながらひどい嘘。見栄っ張りもここまでくると問題だ。
だけど、ほかに言葉が出てこなかった。
いつも一緒になって悪口に笑っている相手といた理由を、見つけられなかった。
ーーねえ、なんで黙ってるの。
その沈黙が、責めるように重くのしかかる。
広瀬くん、幻滅しただろうな。だからなにも言わないんだ。
「倉橋さん、行こ?」
来海に手を引かれて、
「……うん」
わたしは後ろめたさで一杯になりながら、最後まで広瀬くんと目を合わせることもできないまま、歩きだした。