「バイバーイ」

「うん、また明日」

わたしは来海たちに挨拶をして、教室を出た。

いつも通りどこにも寄り道せず、まっすぐ家に帰る。

ーーそのつもりだったのに。

「愛音!」

駅に向かう途中で名前を呼ばれて、つい立ち止まってしまった。

声の主の正体は、振り向かなくてもわかった。

広瀬慧。

人がたくさんいても、不思議なほどよく通る声。だから余計に、こんな人通りの多い通りで呼ばないでほしいんだけど。

「いま帰り?」

見ればわかるでしょ。

「おーい愛音。聞いてる?」

聞いてるよ。無視してるのわかんないかな。

「愛音っていつも怒っだ顔してるよな。笑えばかわいいと思うんだけどなぁ」

……ああ、もう。今日こそ無視を決め込むつもりだったのに。

わたしはくるりと振り返って、その鮮やかなオレンジ頭を睨みつけた。

「いつも怒ってるんじゃなくて、あなたが怒らせてるの」

そもそも、会って2度目でいつもとか言わないでほしい。頻繁に会っているみたいで不快だ。

「あ、そうなの?ごめんごめん」

そう言いながら、ちっとも悪いと思っていない様子。

「……あの、わたし、あなたとどこかで会ったことありましたっけ」

「えっ、なに、逆ナン?」

「ちがうっ!」

だってやけに馴れ馴れしいし、もしかしてそうなのかなって、ほんの一瞬思ったけれど。

ないよね。偶然だ、偶然。