わたしが話している間、来海はときどき驚いたり顔を歪めたりしながらも、じっと黙って聞いていた。

話し終えてからようやく、息を吐くようにつぶやいた。

「そっか……そんな大変なことになってたんだね」

「大変なのは、わたしじゃなくて広瀬くんなんだけどね」

わたしは苦笑しながら言う。そうだ。いちばん大変なのはきみなのに、わたしが落ち込んだところでなにもできないのに。

「でも、倉橋さん、じぶんのことみたいに苦しそうな顔してる」

「……そう、だね」

だけど、きみのことを考えるだけで、胸が裂けそうなほど、痛いし苦しい。

これは、確かにわたしの問題じゃない。だけどもう、無関係でもいられなかった。こんなにも行き場を見失うくらい、わたしの頭のなかは、きみのことで占領されていた。

「どうしたらいいか、わからなくて。なにもできないのに、広瀬くんのことをわかってあげられないのに、そばにいていいのかなって」

「それでも、いたいんでしょ?」

と来海は優しく微笑んで言った。

そのまっすぐな言葉に、わたしは少し戸惑って、だけど、「うん」と頷いた。

そばにいたい。きみが困っているとき、寂しいときーー

ううん、そうじゃないときでも、いつでも、そばにいたい。


「だったら、会いに行けばいいんじゃないかな」


と来海は言った。

「誰に反対されたって、気にしないで、行けばいいと思う。だって、それが倉橋さんのいちばん大事な気持ちなんだから」

「ーーっ」

まっすぐな言葉に、わたしはハッとした。

そうかーーいろんなことを考えすぎて、なにが大事なのか、わからなくなっていた。


わたしにとって、いちばん大事な気持ちは、広瀬くんのことが大事だっていうこと。


それだけは、誰になにを言われようと変わらない。