「そうだけど、それのなにがいけないの」
わたしは言った。
いつもなにも言えなかった。反発したいことも、望みも、本音は全部、心に押し込んできた。親から見れば、いい子だったと思う。
だけど、本音を押し込んでまでいい子でい続けることに、なんの意味があるんだろう。
「いままで、なんでもお母さんの言う通りにしてきた。お母さんが決めた高校に入って、将来だってわたしの意思なんて関係なく最初から決まってた。じぶんで決めたことなんて、なにひとつなかった」
“広瀬くんと一緒にいる”
それが、なにひとつじぶんで決められなかったわたしが、初めて決めたことだった。
「なに言ってるの。あなたのために言ってるのよ。あなたが将来苦労しないようにーー」
「苦労はしないかもしれない。でもそれで幸せになれるの?わたしにはお父さんも、お父さんと結婚したお母さんも、全然幸せそうに見えない。こんな家で、幸せな未来なんて想像できるはずない」
「な……あなた、親に向かってなんてこと言うの。なに言ってるかわかってるの!?」
「わかってるよ」
わたしはそれだけ言って、部屋に引っ込んだ。まだなにか言われるかなと思っていたけれど、お母さんはそれきりなにも言ってこなかった。
いままで言えなかったこと。心に押し込んでいたこと。やっと言えたのに、心はちっともすっきりしないままだった。