ようやく家に着いた。長かった。もう、たどり着けなくたっていい気がしていたけれど、わたしの足はどう頑張っても自然とここに向かってしまうみたいだ。
ドアを開けて、靴を脱ぐ。いつもは言うただいまも、言う気になれなかった。そのままじぶんの部屋に行こうとしたとき、
「ただいまくらい言いなさい」
寄せたお母さんが、部屋から出てきて言った。眉間にくっきり皺が寄っているから、怒っているのがわかる。
当然だ。こんなに遅く帰ったことはなかったし、携帯に入る鬼のような着信にも気づいていたけれど、全部無視していたから。
「いま何時だと思ってるの。いままでなにしてたの。なんで電話に出ないの。お母さんがどれだけ心配したかわかってるの?」
矢継ぎ早に質問が飛んできて、でもそのどれにも答える気になれなかった。
頭のなかは、広瀬くんのことでいっぱいだった。
「さっき、先生から電話があったわ」
わたしは顔をあげた。
ああ、知ってたんだ。じゃあ、説明する手間が省けた。
「あなたが男の子と歩いてたって。三高の生徒らしいじゃない」
「うん」
頷くと、お母さんは目を見開いた。
「ほんとうなの……?」
「ほんとだよ」
「そういうこと」
とお母さんは冷たく言い放った。
「最近、おかしいと思ってたのよ。図書館で勉強してるって言ってたけど、その子と一緒にいたのね」