◯
呆然としながら家に帰った。
広瀬くんのお母さんがわたしに話した言葉が、頭のなかをずっと回っている。ぐるぐると、濁った水のなかで引っ掻き回されるみたいに。
わたしはなんとか家に向かって歩いていたけれど、頭も足もぐらついて、ほんとうに前に進んでいるのかどうかさえ、よくわからなかった。
辺りはもう夕焼け空なんてどこにも見えない真っ暗な夜で、星すら見えない空にはだだっ広い雲がかかっていた。
そんな。まさかーー
だって、きみはいつも笑って、楽しそうで。友達がたくさんいて、そこにいるだけで周りの人を元気にしてしまう人だから。
そんなきみが、そんなに大きなことを抱えていたなんて。少しも、気づかなかった。
なんで、言ってくれなかったんだろう。
こんなに、毎日一緒にいたのに。
いつそれを聞いても、わたしはやっぱりいまみたいに動揺するに決まっているし、どうしようもないけれど。
『普通にしててよ』
きみはそう言った。
でも、普通ってなに?
どうやって普通にすればいいの?
きみはどうして、あんなにも普通でいられたのーー?