「だからね、ほんとうにわたし、あなたに会えて嬉しいのよ」

と広瀬くんのお母さんは言った。

それから少し悲しそうな顔をして、でもね、と続けた。

「あなたに会ったら、伝えなければいけないと思ってたことがあるの。あの子はきっと、じぶんからは言わないだろうから」

「え……」

まだ、なにかあるんだろうか。

いやーーちがう。

わたしは、まだなにも聞いていない。

聞くのが怖くて、この時が来るのを、先延ばしにしていた。

ほんとうのこと。

広瀬くんが、わたしに話していなかったことーー話せなかったこと。

きっと、まだなにかあるんだ。


ドクドクと、心臓の音が耳のそばで響く。そこに彼女の落ち着いた声が被さる。

「さっき、あなたのことを、普通の女の子と言ったわね」

「……はい」

「それを前提で話をするわね。あなたが優秀だとか、医者志望だとか、そういうことを抜きで。この話を聞いたうえで、あの子と一緒にいるかどうか、決めてほしいの」

彼女は、広瀬くんにそっくりな眼差しで、わたしの目をまっすぐに見て、言った。



「あの子はねーー」



「え……?」


告げられた言葉は、あまりに衝撃的だった。

信じられなかったし、信じたくなかった。

だけど、彼女の落ち着いた眼差しや声が、それが紛れもない真実だと伝えていた。