ねえ、と広瀬くんのお母さんは言った。

「あなた、愛音ちゃんよね?」

「えっ?」

わたしは驚いて、彼女を見た。

「慧から聞いてたわ。最近、仲のいい女の子がいるって。どんな子だろうって思ってた。やっと会えたわ」

「そんな……」

ーー“会えた”なんて。

わたしは、そんな風に言ってもらう資格はないのに。


「あの、わたし……ごめんなさい」


わたしはいたたまれなくなって、頭を下げた。


「一緒にいたのに、気づけなくて……様子が変なのは気づいてたのに、見過ごしてしまって」

「いいのよ、そんなの」

と広瀬くんのお母さんはあっさり言った。

「あなた、お医者さんを目指しているのよね」

わたしはそこまで知っているのかと驚きながら、「はい」と頷いた。

「その歳で将来を決めてるなんて、偉いと思うわ。なかなかできることじゃない。でも、あなたは普通の高校生の女の子よ。普通の女の子が、人の体調の変化に素早く気づいて病院に連れていったり、お世話したりしないでしょう。そういうのは本人が気づくか、周りの大人が気にしていればいい。あなたが責任を感じることなんて、なにもないのよ」

穏やかに微笑んで、諭すように彼女は言った。

「わたしはね、あの子が楽しそうにしてくれれば、それでいいの。それがいちばんの望みなの。最近のあの子、すごく楽しそうだった。あなたの話をするときは、とくにね。なんだって教えてくれるのよ。愛音は頭いいんだ、将来医者になるんだ、学祭に来てくれた、勉強教えてもらったって。まるで彼女みたい。いえ、もしかしたらそれ以上かしらね」



ーーああ、広瀬くんのお母さんだ。

当たり前だけれど、そう思った。

きっと、明るい家庭で育ったんだろうな。だからきみは、あんなに楽しそうに笑うんだ。

このお母さんが、育ててくれたから。