なにかあったらーー

なにかって、なに。

そんなの、わたしだって、じぶんを許せない。

気づいていながら、不安を覚えながら、気づかないふりしていたじぶんを。


「ねえなんか言ったら?ぼけっとしてんなよ、帰れよ、あんたなんかここにいる資格ないんだよ!」

「乃亜ちゃん……っ!」

ドアが開いて、広瀬くんのお母さんが慌てた様子で、彼女の手を掴んだ。

「やだ!離して!あたしはこいつにーー」

「ここは病院よ、落ち着きなさい」

大きくはないけれど鋭い声が、ピシャリと放たれる。

「それができないなら、今日はもう帰りなさい」

「…………っ」

乃亜さんは涙を浮かべた目を見開いて、なにかを言おうとしたけれどなにも言わずに、去っていった。


病室の前に、わたしと広瀬くんのお母さん、2人だけになる。

「ごめんなさいね、こんなことになっちゃって」

広瀬くんのお母さんは、困ったようにわたしを見て言った。

「わたしがあの子を呼んだの。乃亜ちゃんは、小さい頃からずっと仲良しで、いつも慧のことを気にかけてくれていたから」

「……そう、なんですか」

「あの子があんなに取り乱すところ、初めて見たわ。おかげで落ち着いちゃった」

そう言って、少し笑った。

髪を短く切り揃えた、広瀬くんによく似た美人のお母さん。どこかホッとするような優しい笑い方まで、よく似ている。