◯
病室の白いベッドで、広瀬くんは寝ている。チューブに繋がれて、点滴を打っているところだ。
「この子と、知り合いなのか」
この病院の院長ーー白衣を着たお父さんが、そう尋ねた。
「うん」
わたしは頷いた。それ以上の言葉を、口にする気にはなれなかった。
「そうか」
必要な分だけの、短い会話。
口数が多いほうじゃないお父さんとは、元から会話が少なかったけれど、ここ最近は、家でもほとんど話をしていなかった。
まさか、こんな場所で話すなんて思わなかった。
こんな場所で、話なんてしたくなかった。
詳しい話を教えてほしいけれど、聞いてどうするというのだろう。
頭のなかが、こんなにぐちゃぐちゃで、なにひとつまともに考えられないというのに。