キラキラと光が落ちてくる大きなツリーの下ーー、
「広瀬、くん……?」
ふいに見たきみの横顔が、ハッとするほど、青ざめて見えた。
広瀬くんは、強張った表情で、わたしを見た。
「ごめん、いま、急に」
ーー聴こえなくなった。
弱々しく落とされたきみの声。
「え……」
ドクン、ドクン、と胸が嫌な音を鳴らした。
今日の広瀬くんは、どことなく変だった。
元気だったかと思えば、急にぼうっとしていたり、いつもは普通にできている会話が、突然途切れたり、呼んでも反応がなかったり。
でもきみが何事もないように笑っているから、わたしもなるべく気にしないようにした。
楽しい時間を、わたしの言葉で台無しにしたくなかったから。
テストが終わったばかりで疲れているだけかもしれない。それならいい。明日になれば、またいつも通りに戻るなら。
だけど、嫌な予感は拭えなかった。
こんなに近くにいるのに、声が届かない。
なんだか急に、きみが遠くに行ってしまうような。
「なあ、愛音」
と広瀬くんはつぶやいた。
わたしの名前を呼ぶのに、わたしを見ないで、どこか遠くを見て、両手をニット帽ごしの耳に当てて、なにかに怯えるようにーー
「おれさ、さっきから、なんか、おかしいんだ」
そつうぶやいた、つぎの瞬間。
広瀬くんの体が、グラリと前に傾いた。
「ーーーーっ!?」
わたしはとっさに手を伸ばしたけれど間に合わず、抵抗することもなく、その場に倒れた。
「広瀬くん……?」
ーーなにが起こったの。なに。どうしちゃったの。
頭がパニックになって、まともに働かない。
こういうときはどうするんだっけ。まず人を呼んで、それから電話、それから……
やがて周りの人たちが異変に気づいて寄ってくる。すぐそこにあるはずのたくさんの音が、遠くに聴こえる。
「広瀬くん……っ!」
何度も、繰り返し、きみの名前を呼んだ。
だけどきみは目をつむったまま、なにも応えてはくれなかった。