「はあ……はあ……っ」
駅前の広場の巨大ツリーの下に、ふたりしてドサッと座った。平日で、まだ夜には早い時間だからか、ツリーの前はまだそんなに人が集まっていなかった。
「甘いもん食べた直後に走るのきつ……」
「だ、だね」
ふたりしてぜえはあ息をする。宝石みたいに色とりどりの光をまとった美しいツリーの下、だけどいまはそんなの関係なかった。
「あーあ、明日絶対なんか言われる」
わたしはツリーを見上げてつぶやく。
「愛音、不良だなー」
「不良じゃない!」
少なくともオレンジ頭の人には言われたくない。
広瀬くんはあははと笑って、少し首を傾けてわたしを見た。
「愛音、今日、楽しかった?」
「うん、楽しかった」
「お、珍しく素直」
「だって、ほんとに、楽しかったから」
小さい頃は、よく来ていた街。人がたくさんいて、賑やかで、地元よりもずっと華やかで。楽しかった昔の記憶を思い出したくなくて、寄り付かなくなった。
用事もないし、わざわざこんな人の多いところに来る必要なんてない。そうやって、ずっと遠ざけていた。
でも、今日、久しぶりに来てみたら、最初は重かった気持ちも、いつの間にか忘れていた。
イルミネーションを見ながら手を繋いで歩いて、とびきり甘いパフェを苦しいくらい食べて、笑って。
夢のような時間だった。
そんな風に、きみが思わせてくれた。変えてくれた。
『行こう、愛音』
そう言って、きみが強引に引っ張って連れてきてくれなかったら、わたしの足はきっと、いまでもこの場所を遠ざけたままだった。
大げさかもしれないけれど、ほんとうにそう思う。
「だからねーー」
ありがとう。
そう言いたかった。
ーーでも、言えなかった。