いつもは通り過ぎるはずの、途中の駅。でも前に事故で降りた小さな駅とは違って、街の中心部にあり、たくさんの人が行き来する大きな駅だった。

普段、こんなに大きな駅で降りることはない。来る用事がないし、人が多くて疲れるだけだし。

「えっと……」

改札や出口がいくつもあって、どっちに行けばいいんだっけと戸惑っていると、

「愛音、こっち」

と広瀬くんがわたしの手を引いてくれて、ようやく改札の外に出られた。

やっぱり、人混みは苦手だ。

「ありがとう……」

「ここ、初めて来た?」

と尋ねられて、わたしは「ううん」と首を振った。

「初めてじゃないけど、久しぶり」

ここに来たのは何年ぶりだろう。

この街の中心部ーーつまりこの駅からそう遠くない場所に、うちの病院がある。

小さい頃は、お母さんに連れられて、わたしも一緒に病院に行っていた。わたしは詳しいことはよく知らなかったけれど、たぶん、お父さんへの届け物とか、ちょっとした用事があったとか、そんなことだったと思う。

あの頃も、たまにこの街に来ると、やっぱり人の多さに圧倒された。こんな場所で迷子になったら、2度と家に帰れなくなるんじゃないかと思うと怖くて、一生懸命お母さんの手を握りしめて歩いていた。

『愛音は怖がりなんだから』

お母さんは呆れたように言いながら、でもその声は優しくて、笑っていた。その手を繋いでさえいれば、わたしは怖くてもどこへだって行ける気がした。

中学に入る頃から両親の間に溝ができはじめて、お母さんがわざわざお父さんに届け物をするなんてこともなくなった。わたしがお母さんと一緒に出かけることもなくなっていった。

いまはもうない、だけどここに来れば、楽しかった頃を思い出してしまうから。

できればここには、あまり近づきたくなかったんだけど……。