『好き』
そう自覚してから、わたしは完全におかしかった。
学校では冷静でいられるのに、顔を見ても冷静でいようとしているのに、いざ目の前にすると、全然ダメだった。名前を呼ぶ声にさえ必要以上に反応してしまう。
そんなわたしの気持ちなんてお構いなしに、
「愛音、聞いて。すごいことがあったんだ」
嬉しそうに言いながら、広瀬くんがリュックから取り出したのは、テスト用紙だった。
見事に全部60点前後。これのなにがすごいんだろう。
「なんと、全教科平均点!」
「へ、平均点……?」
平均点って喜べる点数なの……?
「いままで平均の半分くらいしかなくてやばかったからさ。愛音が教えてくれたおかげで、初めて平均点とれたよ」
「そ、そう、よかったね……」
よかったのかどうかいまいちよくわからないけれど、広瀬くん的にはよかったんだろう。だってこんなに喜んでいるのだから。
「これで冬休みは自由の身だーっ」
両手を広げて伸びをする広瀬くん。相当補習が嫌だったらしい。
「愛音、冬休み、遊ぼうな」
「わたし、毎日冬季講習あるけど」
「えぇ!?な、なぜ?」
「当然でしょ。冬休み中に成績が落ちたら困るし」
「いや愛音なら余裕だと思うけど……休み中まで勉強とか考えられない……」
なにやらぶつぶつ言っている広瀬くん。
冬休みの予定なんて、考えたことなかった。
学校があってもなくても、勉強ばかりしていたから。