それから、テストまで、毎日公園で待ち合わせて勉強するようになった。

「よ、愛音」

いつもより少し遅れてやってきた広瀬くんは、手にビニール袋を持っていた。

「売店で肉まん買ってきたんだ。食べる?」

そう言いながら、手には2つのほかほかの肉まん。

わたしが返事をする前に、ぐぅぅ、と思いっきりお腹が鳴った。

「あ、これは、えっと」

言い訳を探すけれど、どう聴いたってお腹の音以外のなにものでもない。

恥ずかしさいっぱいで熱くなった顔をあげるけれど、

「ん?どうかした?」

と、広瀬くんは不思議そうに首を傾げる。

「えっ」

聴こえなかったんだ。

「……ううん。なんでもない」

ホッとした。
でも、笑われたほうが、まだよかったかもしれない。

これまでにも、こういう、曖昧なことが何度かあった。

こんなに近くにいるのに、普通なら聴こえる距離なのに、急に壁ができたみたいに、きみに声が届かなくなる。

きっと、気づかないだけで、会話のなかで何度もあるんだろう。

そしてそれは、きみにとって、日常なんだろう。